弁護士雑記帳

2016/02/03 弁護士雑記帳

「まだ最高裁がある」か

日本の裁判制度は、ご承知のとおり、三審制を採っています。したがって、控訴審で敗訴したとしても、少なくとも手続上は、上告をして争う余地が残されています。控訴審で負けても「まだ最高裁がある」というわけです(一審が地方裁判所の事件の場合です。1審が簡易裁判所であれば、上告審は高等裁判所になります。)。

しかし、今日の民事訴訟法では、最高裁判所に上告できる理由は相当に狭く限定されています。単に事実認定に誤りがあるというだけの理由では最高裁で審理してもらえないのです。すなわち、最高裁に対する上告は、①憲法違反(312条1項)か、②重大な手続違反である絶対的上告理由(312条2項)がある場合に限り認められます。それ以外の場合には③判例違反又は法令の解釈に関する重要な事項が含まれている場合に、最高裁がその裁量により上告受理決定によって上告を受理する制度があるに止まります(318条)。

したがって、控訴審の判決に憲法違反がある(判断内容又は手続に憲法解釈の誤りがある)といえるのであれば、(言い分が認められるかは否かはともかく)上告審で審理してもらえる見込みがありますが、そうでない場合、上告をしても、そもそも審理してもらえるのかどうかが怪しいことになります。適法な上告理由がなければ、上告は、決定で却下されてしまいます(317条2項)。

憲法違反があるといえる事件でないとすれば、多くのケースでは、絶対的上告理由の1つである 「判決に理由を付せず、又は理由に食い違いがあること」(312条2項6号、「理由不備」「理由齟齬」と言われます。)にあたるとして上告を提起し、または(あるいは同時に)上記③の上告受理事由が存するとして上告受理申立をすることになります。

理由不備とは理由が全くない場合はもちろんですが、主文の根拠となるべき理由付けが不足している場合を含みます。ですが、単なる事実認定の不当が該当しないのはもちろん、原判決の論理がそれ自体完結していれば判断の遺脱があっても理由不備にはあたらないとするのが最高裁の判例です(最判平成11年6月29日裁判集民193号411頁)。

理由不備又は理由齟齬をいうべき事情も見出し難い、判例違反や重要な法令の解釈の誤りがあるとも言い難い、要するに不服は「事実認定がおかしい」ことに尽きる、といったケースでは、あとは「裁判所の事実認定が経験則に反する」としてする上告受理申立に期待するほかありません。「経験則」が上告受理事由である「法令の解釈に関する重要な事項を含む」の「法令」にあたると見るわけです。
この点、経験則違反も法令違反にあたると解釈されてはいますが、「高度の蓋然性をもって一定の事実を推論させるような経験則」に限る、などと限定する見解が有力です(『条解民事訴訟法〔第2版〕』1637頁)。

上告をして中味の審理をしてもらうことが相当に狭き門であることをご理解いただけたでしょうか。