法律問題コラム

2023/10/07 法律問題コラム

退職金・自己都合か会社都合か

自己都合退職の場合、退職金の支給率をそれ以外の事由による退職の場合に比べて低く設定している会社がよくあります。
そのような会社で、労働者が退職届の提出など自主退職の意思を示したと認められる行動を取って退職に至った場合、当然に自己都合退職の場合の退職金しか支払いを受けられないのでしょうか。

法律は退職金制度のあり方について(そもそも、退職金制度を設けるか否かについても)特段の規制を設けていませんので、退職金規程に定められた複数の支給率のうち、どれが適用されるかは、退職金規程の解釈の問題です。
具体的には、退職金を請求する労働者が自らの退職について退職金規程上、高い方の支給率が適用される事由(以下、「会社都合」と言います。)に該当することを主張して高い方の支給率による退職金を請求したときに、当該労働者の退職が当該退職金規程上、会社都合の場合に該当するかどうか、という形で争われることになります。

このとき、重要なことは、労働者が退職届の提出等の自主的に退職する旨の行動を外形上取っていることによって当然に自己都合(=会社都合でない)と判断されるものではない、ということです。会社都合になるか否かは、「労働者が退職することとなった主たる原因が会社側の事情にあるか否かという観点で判断」されます(佐々木宗啓他編著『類型別 労働関係訴訟の実務〔改訂版〕Ⅱ』587頁)。

とりわけ、「使用者による退職勧奨が違法な退職強要に当たると判断されれば・・・当然に会社都合と判断され」ますし(佐々木宗啓他前掲書588頁)、「会社の違法な行為により退職を余儀なくされた場合は会社都合と同視できる」とも説かれています(山口幸雄他編『労働事件審理ノート〔第3版〕』140頁)。

つまり、退職届の提出(等、自主退職を示す外形)の事実がある場合、会社都合の退職金を請求する「労働者は、その提出に至る経緯に関する具体的事実を立証して、退職届提出の主たる原因が会社側の事情にあることを主張、立証する必要があ」りますが(渡辺弘『労働関係訴訟Ⅱ〔改訂版〕』271頁)、この主張・立証に成功すれば、退職届提出等の事実がありながら、会社都合の退職金の請求が認容されるわけです。

したがって、あなたがもしも退職届を提出するなどして外形上、「自主退職」した場合であっても、それが不本意な退職であって、会社側に原因があると考えるなら、会社都合の退職金の請求を一考してみることに価値があるといえます。