法律問題コラム

2022/06/22 法律問題コラム

賃金債権の時効

賃金債権の時効は何年でしょうか。
かつては「2年」と答えておけば正解だった(※1)のですが、法改正で少々ややこしくなりました。

令和2年労働基準法の改正により、同年4月1日以降の日を支払日とする賃金債権については、3年となっています。したがって、それ以前から同一の事業者に在籍している労働者について、未払残業代等の未払賃金がある場合、時効期間2年の債権と3年の債権が混在することがありえます。

そして、これまでは未払賃金は毎月の給料支払日を経過するたびに、2年経過した部分について時効が完成していましたが、今現在はそうではありません。令和2年3月31日までを支払日とする賃金は令和4年の応答する日の経過により時効が完成していたのに対し、令和2年4月1日以降の日を支払日とする賃金は時効期間が3年に延びているため、令和5年の応答する日を経過するまで時効が完成せず、したがって、現在は、時間が経過しても時効が完成する賃金債権が存在しないという不思議な状態になっています。

毎月、一定額の未払賃金が発生しているケースで考えると、これまで未払賃金は2年分累積し、2年分以上は累積しなかった(時効消滅していくから)のに対し、令和4年4月以降、2年分に加えて毎月1か月分ずつ未払賃金が累積していき、令和5年3月に3年分に達するまでは同様ということになります。

そうして、これまでは請求されても2年分が上限であった未払残業代等の未払賃金が今後は3年分になるわけです(※2)。
3年分累積した未払残業代を複数の労働者から一括で請求された場合、零細な事業者であれば、資金繰りに窮するような事態にもなりかねないでしょう
今後、事業者にとっては、これまで以上に労働時間の管理を適切に行い、残業がある場合には適法に残業代を支払って、未払賃金を累積させないことが重要だといえるでしょう。

※1 退職金を除く。退職金債権の時効は5年です。この点は、現在も変わりません。
※2 法律の本文(労基法115条)では5年であって、暫定的に3年とされているもの(同法附則143条3項)なので、将来的には5年となることが見込まれます。