2018/05/22 弁護士雑記帳
安倍首相の答弁と田原坂ルール
安倍首相が2015年2月に加計学園の理事長と面会し、獣医学部新設の構想について説明を受けたなどと記載された愛媛県の文書が国会に提出されたと報じられています。加計学園の獣医学部新設計画を知った時期について、2017年1月20日であったとしてきた安倍首相の答弁は虚偽であった可能性が高くなりました。長年の友人が悲願とする獣医学部新設構想について最近まで知らなかったとすること自体、相当に不自然に思われますが、にも関わらず、安倍首相はなぜ上記のような答弁をしたのでしょうか。
刑事訴訟における尋問技術を研究している弁護士グループの書籍に、ある尋問技術が紹介されています。
それは、「嘘をつく証人は嘘の防御ラインを引き上げがちである」という経験則を前提に、引き上げられた防御ラインを周辺事実の積み重ねで突き崩すことによって証人の信用性を弾劾する、という戦略です。暴行の事実を否定する証人(熊本出身)が、暴行現場である田原坂(熊本の観光地)には行ったこともないと証言し(防御ラインの引き上げ)、反対尋問によって熊本中の観光地に行ったことがあるにも関わらず田原坂だけ行ったことがないという奇妙な「事実」が明らかにされ、証言の弾劾に成功した、という実例に基づいて、同グループはこれを「田原坂ルール」と名付けたそうです(ダイヤモンドルール研究会ワーキンググループ編著『実践!刑事証人尋問技術』55~56頁)。
安倍首相も、別に2017年1月まで知らなかったようなことを言わず、「○○年ころから知っていたが、指示や口利きをしたことは一切ない」と言っておけばよかったところです。 「嘘をつく証人は嘘の防御ラインを引き上げがちである」という経験則がここでも妥当すると考えるのは私だけではないでしょう。
安倍首相は、どうやら「防御ラインの引き上げ」を行い、墓穴を掘ってしまったようです。
しかし、これが裁判なら裁判官という中立(のはず)の審判が嘘を嘘と裁定してくれます。
国会には裁判官はいません。圧倒的な数の力を背景に、安倍首相はこれまでと同様の答弁を続け、何ら窮地に陥ることなどないのかも知れません。
嘘や暴言を述べて憚らない政治家たちに対する審判、それは私たち国民が下すべきものなのでしょう。