法律問題コラム

2015/02/01 法律問題コラム

破産者は全ての財産を失うか

それなりの財産を所持していながら、会社の倒産等によって一時に多額の債務の履行を求められる立場となり、破産申立のやむなきに至る、といったケースがあります。そのような場合、所持している財産の全てを失うことになるのでしょうか。

破産手続開始決定があると、破産者の持つ財産は全て破産財団に属し、債権者に対する配当に充てられるのが原則です。 しかし、破産者の「経済生活の再生の機会を確保すること」も破産法の目的です。破産者の経済的再生のため、現金99万円まで及び最低限の衣服、寝具、家具等の差押禁止財産は「自由財産」として破産者の手元に残されることになっています。 さらには、それら以外の財産であっても、裁判所の決定により、自由財産とすることができます(これを「自由財産の拡張」といいます。)。どのような基準で拡張の申立を認めるかは、裁判所によって多少運用が異なりますし、財産の種類にもよりますが、その他の自由財産とあわせて99万円以内であれば、比較的容易に拡張が認められ、99万円を超過する場合には原則として認められないという扱いが一般的です。 したがって、所持している財産のうち、少なくとも99万円を超える部分については、破産管財人に委ね、債権者の配当に充ててもらうことを覚悟しなければならない、とまずは考えなければなりません。

もっとも、99万円を超過する自由財産の拡張が一切認められないわけではありません。特別な事情がある場合、大阪地裁が示している運用基準の言葉で言えば、その財産が「破産者の経済的再生に必要不可欠であるという特段の事情」が認められる場合には、99万円を超える財産の拡張を認めてもらうことができます。私が代理人をした破産者でも、99万円を超過して自由財産拡張を認められたケースが2例あります。破産者の置かれている特別に困難な状況、拡張を求める財産の性質、拡張の必要性等について、主張を整理した書面に裏付資料を添付して破産管財人に提出し、理解を求めた結果、1人は合計229万円余、もう1人は合計399万円の拡張を認められました。

他方、所持している財産を失うのが嫌だからといって、破産申立の直前に、財産を隠匿したり、第三者に贈与してしまったりすると大問題です。破産者は免責の許可を受けられず、破産をしたのに借金は消えない、といった羽目に陥るおそれがあります。第三者に贈与した場合には、贈与の相手方が破産管財人から返還請求(否認権行使)を受けることになり、相手方に大きな迷惑を掛けてしまうことになります。破産者自身も否認権行使の決着が付くまでは破産手続が終了せず、長く破産者の地位に留まることになります。さらに言えば、詐欺破産罪(破産法265条)に該当し、10年以下の懲役に処せられるおそれも生じます。

したがって、破産申立をお考えの方は全てそうですが、とりわけ一定の財産を所持している方の場合、申立準備段階から、十分な知識と経験を有する弁護士にご相談のうえ、手続きをされるよう強くお勧めします。