法律問題コラム

2017/03/28 法律問題コラム

同時廃止のリスク

自己破産には大きく分けて管財手続と同時廃止手続があります。後者の、破産管財人が選任されない手続の方が費用が安く済むこと、早く終わることなど、破産者にとって負担が軽くなります。そのため、破産を依頼される方は通常、手続が同時廃止として処理されることを希望しますし、代理人としても可能な限り同時廃止決定を得るように努めるのが一般的な処理方針となります。

しかし、同時廃止の方が依頼者にとって有利とばかり言えない場合があります。 1つは、破産者に財産がある場合で、管財事件であれば、自由財産拡張の制度があるため、同時廃止手続によるよりも多くの財産を手元に残せるケースがあります。

もう1つは免責の関係です。 この点、気になる裁判例があります。東京高裁平成26年7月11日決定(判タ1470号109頁)がそれです。事案は、住宅ローンが支払えない状態で、しかし、1000万円以上の余剰価値があった不動産を妻に譲渡した破産者が、その13年余後に破産申立したというものです。破産者に対していったんは免責の決定が出たのですが、債権者から即時抗告があり、裁判所は再度の考案によって免責許可決定を取り消し、免責不許可としました。これに対して破産者が即時抗告したのですが、東京高裁は抗告を棄却するにあたり、次のように述べています。

「一般に、破産裁判所が破産申立てを受けて自ら職権で調査し得る事実の範囲は限られており、破産手続の進行や免責の判断について深刻な争いになった場合には、破産管財人が自己の調査結果に基づいて述べる中立的な意見が重要な意味を持ってくるが、抗告人は、上記のとおり同時廃止の申立てをすることを選択して破産手続の進行を求めたものである。その場合、破産裁判所としては、破産管財人の意見を聴くことができないのであり、そのような破産裁判所が、免責不許可事由のある破産者について、自らの認識可能な事実では裁量による免責をすることができないとして免責不許可の決定をしたときは、一般に、抗告審において、破産裁判所のこの判断を否定する証拠資料を得る手立てがないものといえる。抗告人の裁量免責を求める旨の主張は、この観点からも採用し難い。」

すなわち、同時廃止である以上、免責は許可できない、管財事件だったら分からなかったが、と裁判所は言っているわけです。 そうすると、重大な免責不許可事由があって、かつ債権者の中に強く免責に反対する意見が予想されるような場合、敢えて管財事件として申し立てた方が賢明であるケースがあると考えられます。

このように、何でもかんでも同時廃止を目指せばよいとはいうことではなく、慎重な検討が必要です。その意味でも破産申立てを検討する方は経験豊富な弁護士に相談することが望ましいと言えます。