法律問題コラム

2015/07/26 法律問題コラム

これが建物賃貸借予約契約だ

建物賃貸借予約契約について、近時、興味深い裁判例が出ていますので、御紹介します。
東京地裁H27年1月28日判決(判例時報2253号50頁)です。

内容は、コンビニエンスストア・フランチャイザー大手のローソンが、建築予定の建物のオーナーとの間で当該建物の一部を賃借する合意をし、手付金を授受したが、賃貸借契約の締結を拒絶するに至ったため、オーナーから不法行為にあたるとしてローソン仕様の工事に要した費用等の損害賠償を求められたという事案です。ローソンが賃貸借を取り止めた理由は、判決では、近隣(「同じ道路の同じ側の上流)にセブンイレブンと思しきコンビニエンスストアの開発計画が判明したことにあるものと認定されています。 裁判所は、手付金を解約手付とする条項に基づき、放棄した手付金以上の損害賠償義務を負わない旨の被告の主張を認め、請求を退けています。

結論の当否はさておき、私が注目したいのは本件で交わされた契約は形式上も予約であることが明らかであることです。すなわち、ローソンとオーナーとが手付金の授受にあたって交わした契約書の末尾には賃貸借契約が添付され、「近い将来」に当該賃貸借契約を締結することが定められていました。判文は、交わされた契約を「手付契約」と呼称していますが、賃貸借契約との関係で言えば、本契約を締結する合意なのですから、まさに講学上の予約の概念に合致し、建物賃貸借の予約であったといえます。
予約である以上、仮に損害賠償請求が認められるとしても、その場合、損害は信頼利益(本契約が締結されると信じたことによって生じた損害)の賠償に限られ、賃貸借契約が履行されていた場合に得られたであろう利益の賠償までは認められる余地がないと考えられます。

このような予約を締結することが可能であり、かつ現にこのような形式の契約が締結されている社会的実態があるなら、にも関わらず、そのような形式を採用せず、改めて本契約の締結を経ることなく一定の事由によって当然に本契約に移行することと定められている「建物賃貸借予約契約」を締結した場合には、法律上は本契約であると認定される可能性が高くなると言えるのではないでしょうか。