部長・課長がする契約の有効性~使用人の代理権(1)

会社間の取引で契約を締結する際、会社名の下に署名押印する者が代表取締役ではない一従業員(営業部長等)である場合があります。そのような形式でも、契約は有効に会社間で成立するのでしょうか。順をおって考えてみたいと思います。
なお、主に支店の営業について問題となる「支配人」「表見支配人」については、次のコラムで別に論じることにして、今回は「支配人」又は「表見支配人」に該当しない従業員が行為者である場合について考えます。

 

代表取締役は、会社の業務に関する一切の行為をする権限を持っています(会社法349条4項)。したがって、会社間の契約において代表取締役が会社を代表して契約している場合、契約の効果が会社に帰属することは明らかです。
しかし、会社の規模が大きくなるにつれ、全ての契約について代表取締役が決裁し、かつ締結事務を行うということは現実的ではなくなります。そこで、企業は、各部署の長の地位にある従業員等に対して、決裁及び契約締結の権限の委譲を進めることになります。
その場合、契約締結権限を委譲された従業員が内規に定められた範囲内で会社の名前を表示して契約を締結したのであれば、代理人が権限の範囲内で本人のためにすることを示してした意思表示(民法99条1項)にあたり、その効果は本人である会社に帰属します。

 

しかし、取引の相手方にとっては、一従業員に過ぎない行為者が会社から契約締結権限を与えられているか否か、与えられているとしても、当該取引がその権限の範囲内の取引なのかが可視的ではありません。だからといって、そのような場合に必ず取引先に対し、代表取締役からの委任状を要求したり、権限の範囲内であることを示す内規を見せるよう要求するなどして権限を確認するということも現実的ではないでしょう。

 

この点、法律は、取引の円滑と安全を図るべく、手当てをしています。すなわち、会社法14条1項は、「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。」と定めています。かつこの「代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。」とされています(同条2項)。
また、会社法14条1項と同一の規律を内容とする旧商法43条1項について、最高裁は、同条項に基づく代理権限を主張する場合、「当該使用人が営業主からその営業に関するある種類又は特定の事項の処理を委任された者であること及び当該行為が客観的にみて右事項の範囲内に属することを主張・立証しなければならないが、右事項につき代理権を授与されたことまでを主張・立証することを要しない」としています(最判H2.2.22集民159号169頁)。
「ある種類又は特定の事項の処理を委任された者であること」については、現に当該行為者が「ある種類又は特定の事項」を責任者として担当し、処理してきた事実(雇用主である会社がこれに異議を唱えず、是認してきた事実)があれば認められうるでしょう。そのような事実を把握しており、立証することが可能な状況のもとでは、取引が当該事項の範囲内であれば、代理権の有無を詮索せずに安心して契約を締結することができます。

 

ただし、代理権がないこと又は代理権の範囲を逸脱していることについて、悪意である場合はもちろん、重大な過失がある場合にも上記条項による保護は受けられません(上記最判)。したがって、取引の過程に不自然な事情があり、権限の有無について不審を抱いてしかるべきケースでは、行為者の上司に確認するなどの慎重な対応が求められます。

また、ある種類又は特定の事項を委任されておらず、単に委任されているかの如き肩書きの使用を許諾されているだけの者についても、「表見支配人」の規定を類推して代理権が認められる(表見使用人)という考え方については、通説はこれを否定していること(近藤光男『商法総則・商行為法〔第6版〕』92~93頁)にも注意が必要です。すなわち、「部長」「課長」といった名称に捕らわれるのではなく、あくまで当該使用人が行っている業務の実態を観察して「ある種類又は特定の事項を委任」されていると認められるかどうかを検討する必要があります。