具体的事実を把握せずに行われた懲戒解雇の効力

従業員に非違行為が疑われるときに、使用者が具体的事実を把握することなく「事実関係の詳細はともかく、非違行為があったことは明らかだ」として懲戒解雇に及んだ場合、解雇の効力はどうなるでしょうか。

 

この点が問題となった事案で、ある裁判例は「使用者が労働者に対する懲戒処分を検討するに当たっては、特段の事情がない限り、その前提となる事実関係を使用者として把握する必要があ」り、「特に、懲戒解雇は、懲戒処分の最も重いものであるから、使用者は、懲戒解雇をするに当たっては、特段の事情がない限り、従業員の行為及び関連する事情を具体的に把握すべきであり、当該行為が就業規則の定める懲戒解雇事由に該当するのか(懲戒解雇の合理性)、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして、懲戒解雇以外の懲戒処分を相当とする事情がないか(懲戒解雇の相当性の観点)といった検討をすべき」ものであると述べ、手続的な相当性を欠くことを理由の1つとして解雇の効力を否定しています(セイビ事件東京地裁決定平成23年1月21日・労判1023号22頁)。


また、そもそも、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情がない限り、その存在をもって当該懲戒処分の有効性を根拠付けることができないとされています(山口観光事件最判平成8年9月26日・労判708号31頁)。したがって、従業員が懲戒解雇の効力を争ってから使用者が慌てて非違行為の詳細を調査したとしても、調査の結果判明した事実を裁判で懲戒解雇事由として主張できない可能性があります。

 

このように、懲戒解雇がなされた場合に解雇が有効か否かを考えるにあたっては、懲戒当時に使用者が懲戒解雇に相当する具体的事実の詳細を把握していたのか、という点も検討する必要があります。