商慣習の援用

「法律の規定が取引の実態と懸け離れている」ということは、ままあることです。
たとえば、商法526条では、商人間の売買について、商品受領後6か月を経過すれば、商品に隠れた瑕疵があっても、買主から売主に対して損害賠償等の請求は一切できないものとされています(売主が悪意である場合は別です。)。
これは、商品の種類によっては相当な規律かも知れませんが、「たかだか半年で売主が何の責任も負わない、などという話はありえない」という業界もあるでしょう。
しかし、契約で特約が設けられていなければ、上述の法律の規定に従うことになります。業界によっては、それでは買主が浮かばれない、というべきかも知れません。
そんなとき、法律解釈によって救済する方法としては、民法92条の規定が考えられます。民法92条は、法律の任意規定と異なる慣習がある場合、当事者が慣習による意思を有しているときは、慣習に従うと定めています。しかも、「慣習による意思」は、特殊の事情がない限り認められ、立証を要しないものとされています(大判大10.6.2民録27・1038)。
つまり、(「1年以内なら代品を請求できる」「10年以内なら無償で修理を請求できる」などの)商慣習の存在さえ立証できれば、「慣習による意思」を否定すべき特殊の事情がない限り、商慣習が契約の内容となり、特約があるのと同じ状態になるわけです。もっとも、商慣習の立証は容易でないことが多いでしょう。

なお、「商慣習」について、商法1条2項には「商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い」とあります。この規定からすると、「この法律」(すなわち商法)に規定がある事項については商慣習を援用できないのではないか、という気がするところです。
しかし、同項でいう「商慣習」は「商慣習法」のことであり、これは当事者の意思を媒介とせずに法律関係を規律するものであって、当事者の意思を媒介として契約の内容に取り込まれることによって法律関係を規律する「事実たる慣習」(民法92条にいう「慣習」)とは異なる、というのが通説的な理解です。したがって、商法に規定がある事項であっても、民法92条により、商慣習が法律関係を規律することはありえます。