「予約」とは何か

法律用語としての「予約」は、「将来一定の契約を締結すべきことを約する契約」を意味します(『新版注釈民法(13)』24頁)。予約に基づいて締結される契約のことを「本契約」といいます。
ところが、私たちの日常生活では、改めて本契約を締結することなど無いのに「予約」という言葉を多用しています。たとえば、「出版予定の『◯◯全集』を予約する。」「飛行機を予約する。」「ホテルを予約する。」などなど。
これらの「予約」に共通している事情は、契約の履行が契約後直ちになされないことです。典型的には、出版予定の刊行物の場合のように「予約」の時点では目的物が存在していない場合があります。このように「存在しないもの」の給付を始めとして、履行期が将来のものについてする契約について、どうも私たちは、「予約」という言葉を使っているようです。

しかし、たとえば出版予定の刊行物の「予約」は、「その刊行物についての売買契約そのものを意味しており、法律的な意味での売買予約ではない。売買の目的物が実際にはまだ存在しないために予約ということばが用いられるにすぎない」とされます(有斐閣双書『民法(6)[第4版増補補訂版]』24頁)。その他の種々の「予約」についても、法律的には本契約と解すべきことが指摘されています(椿寿夫編『予約法の総合的研究』60~66頁小川幸士執筆部分)。
すなわち、「予約」という言葉が使われていても、法律的に見れば「予約」ではなく、「本契約」であるケースが少なくないといえます。


この点に関連して、興味深い裁判例があります。東京地裁H17.12.16(LLI/DB06034789)です。
建築予定の建物について「定期建物賃貸借予約契約」が締結されていたところ、賃貸人が一方的に契約を解約したため、賃借人が約定の違約金に加え、得られる予定であった転貸借料と賃料との差額等の逸失利益を含む損害賠償を求めたという事案です。賃貸人は、契約書の表題に「予約」とあることを指摘し、本契約に基づく債務は未だ現実化していなかったから、本契約を不成立に至らしめた者が負う損害賠償債務は信頼利益の範囲に止まると主張しました。
しかし、裁判所は、次のように述べて被告の主張を退け、逸失利益を含む3億6千万円余りの損害賠償を命じました。
「本件賃貸借契約に基づいて、被告が原告に対して負担する債務は、本物件を建築してこれを賃料735万円で25年間使用収益させる債務であって、通常の賃貸借契約における賃貸人の債務と取り立てて性格を異にするものではないこと及び本件賃貸借契約には本物件が完成して被告から原告に引き渡される時に当然に本契約となるとの定めがあって(甲1)、本契約が成立するために予約完結の意思表示が必要とされていないことが認められ、かかる事実からすると、本件賃貸借契約がいわゆる予約契約であるとは認められない」

当該事案の事実関係に基づく判断というべきでしょうが、ただ、契約書の表題に「予約」とさえあれば、当然に本契約としての効力が認められなくなるものではない、ことだけは肝に銘じておくべきでしょう。