提訴が不法行為になるとき

珍しい判例を目にしましたので、ご紹介します。
会社が従業員による横領を主張して従業員を被告として損害賠償を求めて提訴したことにつき、提訴が不当訴訟にあたるとして従業員がした反訴(慰謝料及び弁護士費用の損害賠償請求)を認容した裁判例(広島高判平成25年12月24日)が判例誌の最新号に出ていました(判例時報2214号52頁)。
被告側の依頼を受けたとき、依頼者から「無茶苦茶な提訴だから、逆に慰謝料を請求できないか」などと尋ねられることが、ときどきあります。
この点、判例は、訴訟の提起が被告に対する不法行為となるのは、「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」と認められるときに限られるとし、具体的には、①提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠き、かつ②提訴者がそのことを知りながら又は容易に知り得たのに敢えて提訴したような場合がこれにあたるとしています(最判昭和63年1月26日)。
最判のいう要件のうち、問題は②です。敗訴すると分かっていてやったという認定は容易に得られるものではありません。また、裁判を受ける権利を尊重する観点からは、安易にこれを認定すべきでないと考えられます。
ですから、上の質問に対しては「反訴の提起は可能だけれども、認められる可能性は乏しいから慎重に考えるべきだ」などと答えるのが常になっています。
しかし、上記広島高判はこれを認めています。横領だと主張していた預金の引出しについて、会社代表者の指示によるものと認定されており、そうすると代表者に「記憶違い」「思い違い」があったと認定できない限りは、上記②の要件も認められる、というのが高裁の論理です。1審では棄却されていますので、微妙な判断ですが、主要な争点が提訴者自身の行為に関する事実の存否にあるような事案では、比較的、上記②の要件が認められ易いといえるかも知れません。